電気防食のQ&A
電気防食の原理を、基礎編と入門編に分けてQ&A方式でご説明致します
基礎編
塩害とは何ですか?

塩害とは、飛来塩化物や海砂、凍結防止剤などに含まれる塩化物イオンが原因で、コンクリート中の鉄筋やPC鋼材が腐食(錆び)する現象を指します。鋼材が腐食すると、鋼材の断面積が減少することによって、構造物の耐荷性能が低下します。さらに、鋼材は腐食することによって体積が膨張し、この膨張圧によってコンクリートにひび割れを引き起こしたり、かぶりコンクリートが剥落したりするため、鋼材の腐食がより速く進むようになります。
通常、健全なコンクリート中の鋼材は、コンクリートという保護層と、アルカリ性環境によって鋼材表面に形成される緻密な酸化皮膜(不動態皮膜)の二重の保護によって守られています。このため、鋼材は直接外気に触れることがなく、腐食しないと考えられてきました。しかし、海岸地域を中心に多くの塩害事例が報告される中で、塩化物イオンがコンクリート内部に浸透し、不動態皮膜を破壊することで鋼材が腐食する仕組みが明らかになりました。

なぜ鉄は錆びるのですか?

鋼材の状態にある“鉄”は物質的に不安定であり、より安定的な状態である“酸化鉄”=錆びた鉄に変化しようとします。
"鉄"の原料である鉄鉱石は、“酸化鉄”として存在しています。この鉄鉱石をコークスや石灰石とともに溶鉱炉に入れ、1500℃以上の高温で還元することによって、鉄鉱石から酸素を取り除き、“鉄”を製錬しています。この還元された“鉄”はエネルギー的に不安定な状態にあるため、“鉄”は元の鉄鉱石=酸化鉄の状態に戻ろうとし、「錆びる」という現象が起こります。実際には、鉄が錆びることは自然なプロセスであり、鉄は錆びることで安定した状態になります。
このように、“鉄”が“酸化鉄”に戻ろうとする現象を「錆びる」あるいは「腐食する」と呼びます。化学的には、鉄は電子を失って鉄イオンになる反応、すなわち「酸化反応」を起こします。生成された鉄イオンは水酸化物イオンなどと結びつき、水酸化鉄を形成します。この水酸化鉄が、いわゆる錆です。
また、鉄が錆びるとエネルギーが低下します。この性質を利用した手法の一つに「自然電位測定」があります。自然電位を測定することで、電位が低い箇所を特定し、そこが錆びていると判定することが可能です。これは、エネルギーの高低が電位として現れるためです。
つまり、鉄が錆びるという現象は、鉄が酸化して電子を失うこと、エネルギーが低下して電位が下がることと本質的に同じ意味を持っています。

鋼材はコンクリートの中で
どのように保護されているのですか?

鉄製の道具を使用する際には、一般的に「塗装」や「めっき」などの手法で表面を覆い、水や酸素などの腐食因子を遮断して錆びを防ぐ処置が施されています。同様に、健全なコンクリート構造物においても、鋼材はコンクリートとその表面に形成される保護膜によって、水、酸素、塩化物イオンといった腐食因子と直接接触しないよう保護されています。
この保護膜は「不動態皮膜」と呼ばれ、コンクリートの強いアルカリ性環境によって鋼材の表面に形成されます。不動態皮膜は、厚さがわずか数ナノメートル(1nm=10⁻⁹m)の酸化皮膜です。不動態皮膜自体も酸化物であるため、広義では「錆」の一種といえますが、この薄い酸化皮膜は非常に安定した化合物であり、通常はそれ以上の腐食を引き起こしません。
不動態皮膜は、コンクリート中に溶け込む水や酸素、または外部から浸入する腐食因子から鋼材を守るバリアとして機能します。この不動態皮膜に覆われ、鋼材が安定した状態にあることを「不動態」と呼びます。

コンクリートの中の鋼材が錆びるとどうなりますか?

鋼材が錆びると、その表面に腐食生成物(錆の層)が形成されます。この腐食生成物は多孔質で脆く、腐食を抑える効果がないだけでなく、水や酸素などの腐食因子を吸収し、元の体積の2倍以上に膨張します。この膨張によりコンクリート内部に圧力が生じ、ひび割れが発生します。
ひび割れが一度発生すると、その隙間を通じて塩化物イオンや酸素、水などの腐食因子が鋼材に急速に供給されるため、腐食の進行が加速します。その結果、かぶりコンクリートが剥落し、鋼材が外部に露出してしまいます。露出した鋼材は腐食がさらに進み、次第に断面が減少していきます。
また、腐食は必ずしも均一に進むわけではなく、特定の部位で急速に進行する場合があります。このような局所的な腐食が発生した箇所に応力が加わると、全体としての錆の量が少ない場合でも鋼材が破断することがあります。鋼材は、構造物における引張力を分担する重要な要素であり、その断面が減少することは、構造物全体の耐荷力を低下させる重大な要因となります。これにより、構造物が危険な状態に陥る可能性があります。

なぜ塩化物イオンがあると鋼材は錆びやすくなるのですか?

コンクリート中の鋼材は、コンクリートそのものと不動態皮膜の二重構造によって保護されています。このため、鋼材が腐食することはないと長らく考えられてきました。
しかし、潮風や波しぶきにさらされるコンクリート構造物、あるいは凍結防止剤が散布される環境では、塩化物イオンがコンクリート内部に浸透します。そして、この塩化物イオンが鋼材表面で一定濃度以上になると、不動態皮膜が容易に破壊されてしまいます。不動態皮膜が破壊された部分では、コンクリート中に含まれる水や酸素と鋼材が反応し、腐食が進行し始めます。
不動態皮膜の破壊が起こるかどうかは、塩化物イオンの濃度に大きく依存します。土木学会では、W/C比やセメントの種類によって腐食が発生する限界の塩化物イオン濃度が異なるとしています。港湾基準では、この限界濃度を一律に2.0kg/m3と定めています。

腐食発生限界塩化物イオン濃度とは何ですか?

鋼材表面におけるコンクリート中の塩化物イオン濃度が鋼材腐食発生限界塩化物イオン濃度を超えると、不動態皮膜が破壊されて鋼材の腐食が開始します。(→基礎編Q.5)
この鋼材腐食発生限界塩化物イオン濃度はコンクリートの使用材料や配合、コンクリートの含水状態等に影響されるため、個々の構造物によって状況は異なります。したがって、塩害を受ける構造物における鋼材腐食発生限界塩化物イオン濃度は、対象構造物における点検結果に基づき、鋼材の腐食速度と鋼材表面におけるコンクリート中の塩化物イオン濃度の関係から設定することが原則となります。
点検結果や類似する構造物情報が無い場合は、設計や施工記録等の情報からセメントの種類および水セメント比(W/C)を確認した上で、下記の式により鋼材腐食発生限界塩化物イオン濃度(Clim)を設定してもよいこととしています。
これらの式を図化したものは「改訂版コンクリート構造物の電気防食Q&A」を参照ください。Q&Aに掲載された図は土木学会【維持管理編】におけるW/Cやセメントの種類により腐食発生限界塩化物イオン濃度の算定式を図化したものであり、日本港湾協会「港湾施設の技術上の基準・同解説」(港湾基準)の港湾構造物における腐食発生限界塩化物イオン濃度を記載したものです。また、旧建設省の総合研究開発プロジェクトでの検討結果では、2.5kg/m3であり、土木学会【維持管理編:2006年版】では1.2kg/m3としていました。
普通ポルトランドセメント:Clim=-3.0(W/C)+3.4
高炉またはフライアッシュセメントB種相当:Clim=-2.6(W/C)+3.1
低熱または早強ポルトランドセメント:Clim=-2.2(W/C)+2.6
港湾基準:Clim=2.0
シリカヒューム:Clim=1.2
塩害のほかに鋼材が錆びることはありますか?

塩害以外にもコンクリート中の鋼材が錆びることがあります。その原因は、コンクリート構造物に発生したひび割れや中性化によるものです。
健全なコンクリート中の鋼材は、コンクリート(かぶり)と不動態皮膜との2つで保護されています。しかし、鋼材が外気にさらされたり、コンクリートのアルカリ性が低下すると不動態皮膜が維持できなくなり、腐食が進行します。
何らかの理由により、コンクリートにひび割れが発生・進展したり、コンクリートが剥落したりすると、鋼材が外気にさらされてしまい、直接腐食反応に関わる因子(酸素と水)が鋼材と接触するため、鋼材は簡単に錆びてしまいます。
また、コンクリート中に二酸化炭素が浸透すると、コンクリート表面から中性化が進行し、鋼材表面近くまで中性化が進行すると、アルカリ性が低下するため不動態皮膜が維持できなくなります。このように、中性化によっても不動態皮膜が維持できなくなり、コンクリート中に水分があり、空気中の酸素が十分に供給されると、腐食が進行することがあります。
塩害や中性化のほかにコンクリート構造物の耐久性を低下させる原因には、
・ アルカリ シリカ反応
・ 化学的侵食
・ 疲労
・ 凍害
などがあります。
なお、化学的侵食で鋼材が錆びる場合は、電気化学反応ではなく、化学反応で錆びる場合もあり、その場合、電気防食の効果は期待できません。
また、上記のどの原因の場合でも、ひび割れや浮き・剥落等により鋼材が直接大気に接する場合も、防食電流の流れ道となるコンクリートなどの電解質が鋼材部にないため、電気防食の効果は期待できません。
鋼材が錆びるときに電池ができているのですか?

コンクリート中に塩化物イオンが浸入するなどして不動態皮膜が破壊されると、その部分から鋼材が錆びやすくなります。さらに酸素と水が鉄面に供給されると腐食が進行します。
酸素(O2)は強烈な酸化剤で、水(H2O)とともに鉄(Fe)面に接していれば、鉄は酸化して電子を奪われ鉄イオン(Fe2+:陽イオン)となってコンクリート中に溶け出す(腐食する)ことになります。不動態皮膜が破壊されると鉄素地が剥き出しとなるため、鉄は電子を失い鉄イオンとなる酸化(腐食)反応が起こり、この部分を腐食部(アノード;下図左側)といい、この反応をアノード反応といいます。鉄から放出された電子は鋼材を通って不動態皮膜で保護された健全部(カソード)へ移動し、そこで酸素・水と反応して水酸イオン(OH-:陰イオン)を生成します。この反応がカソード反応といわれる還元(防食)反応で、下図の右側がカソードです。
電子が鋼材中で腐食部(アノード)から健全部(カソード)へ移動するときは、電流はその逆向きに流れています。また、コンクリート中に着目すると、アノードでは鉄からコンクリート中へ電流が流れ出し、カソードではコンクリートから鉄へ電流が流れ込みます。この電流は腐食電流と呼ばれ、腐食回路を形成します。このように、電流の流れ出る極(アノード)と流れ込む極(カソード)との対となっており、この対をもって電池(腐食回路)が形成されているといえるのです。これを腐食電池と呼び、英語では「cell」です。
鋼材面に目に見えない小さな腐食電池が無数にほぼ均等に形成される場合はミクロセルといいます。ミクロセルはアノードとカソードが順次交替するためほぼ均一に全面腐食します。既設コンクリート部と断面修復部などのように塩分や酸素濃度に差があると、アノードとカソードの位置が固定されアノード部だけが腐食し、これをマクロセルといいます。

なぜ腐食電流は流れるのですか?

塩化物イオンで不動態皮膜が破壊された部分は、不動態で保護された部分と比べ、電位が低くなります。このように電位の高低差が生じるということは電圧がかかっていることと同じで、腐食電流が流れます。これは、鉄素地部は鉄が酸化され腐食(アノード部)し、不動態部は酸素が還元され防食(カソード部)されるということになります。
不働態皮膜の有無以外にも、コンクリートのひび割れの有無、コンクリート組成の粗密の差、コンクリートの塩化物イオン濃度の差など、鋼材のおかれる環境の差異により同様に腐食電流が流れます。コンクリートにひび割れがあると、鋼材には空気に触れる部分とコンクリートに被覆されている部分とが生じ、空気に触れている部分の鋼材がアノードに、コンクリート中にある健全部鋼材がカソードになります。また、コンクリートの組織に粗密の差がある場合では、透水性が高い(粗な組織)ほうの鋼材がアノードに、透水性が低い(密実な組織)ほうの鋼材がカソードになります。さらに、コンクリートの塩化物イオン濃度の差がある場合(例として部分断面修復した箇所と未補修部)では、塩化物イオン濃度が相対的に大きいほう(未補修部)の鋼材がアノードに、小さいほう(補修部)の鋼材がカソードになります。
このように、電気的に繋がる鋼材が上記のような異なる環境下に跨っているような場合、腐食電池を形成することになり、アノードとなった部分が局部的に腐食します。これを、マクロセル腐食といいます。
生じた電位差は、腐食の進行速度を意味し、これが大きいほど腐食は急激に進行します。このように、鋼材の腐食は電流(腐食電流)の発生を伴いながら進行します。
電気防食はどのようにして腐食を抑制するのですか?

塩害で不動態皮膜の破壊が起こり酸素や水が存在すると、鋼材の腐食が進行することになります。これは、鋼材表面の電位の高低差のため、腐食電池が形成され、アノード部から腐食電流(アノード電流)がコンクリート中へ流れ出るためです。
したがって、この電位差がなくなれば腐食電流が流れなくなり、理論的には腐食は停止します。このような考え方で鋼材の腐食を抑制するのが電気防食です。
鋼材表面に生じた電位差を解消するためには、電位の高い方に合わせる方法と低い方に合わせる方法とがあります。電気防食はこの後者になります。すなわち、腐食電池の健全部(カソード)の電位を腐食部(アノード)の電位まで下げれば、鋼材表面の電位は同一となって腐食電流は流れなくなります。
電気防食は英語で、「cathodic protection(カソード防食または、陰極防食)」と呼ぶように、鋼材を陰極として電位を強制的に下げることによって腐食を抑制します。
電気防食は、マクロセル腐食抑制にも効果があります。
電気防食はどのくらいの電気を流せばよいのですか?

腐食電流を防ぐために必要な防食電流は、コンクリート1m2あたり1~30mA程度(設計通電電流密度)です。
(1mA=0.001A、30mA=0.030A)
また、通電電圧は1~5V程度となります。
電気防食を500m2の範囲で施工する場合、電流の最大値は、
0.030(A/m2)×500(m2)=15.0(A)、電圧は5Vとなり、
電流の最小値は、
0.001(A/m2)×500(m2)=0.5(A)、電圧は1Vとなります。
これをもとに使用電力を計算すると、電力(W)=電流(I)×電圧(V)より、
最大値は 15.0(A)×5(V)=75(W)、
最小値は 0.5(A)×1(V)=0.5(W) となります。
したがって、電気防食500m2に必要な電力は、白熱電球1個分の消費電力で十分に賄えます。
ただし、交流電源を使用する場合は直流に変換する必要があるため、変換効率の影響により消費電力はおおよそ2倍になる可能性があります。
電気代はどのくらいかかりますか?

防食回路に必要な電圧は1~5V程度、電流は防食面積500㎡の場合0.5~15A程度(設計通電電流密度に基づく)です。これらの最大値で電力量を計算すると以下の通りです。
5(V)×15(A)=75W
直流電源装置では、商業電源の交流を直流に変換する際の効率が50%と仮定すると、必要な電力量は以下のようになります。
75(W)÷50(%)=150W
従量電灯C(一般家庭用の100V)で契約した場合の月額料金は以下の通りです。
①基本料金:約312円(税込)/月
②電力量料金:約3,219円(税込)/月(0.15kW×24h×30日×29.80円/kWh)
③再生可能エネルギー発電促進賦課金:約430円(税込)/月(0.15kW×24h×30日×3.98円/kWh)
合計:約3,961円(税込)/月
低圧電力(三相交流200V)で契約した場合の月額料金は以下の通りです。
①基本料金:約1,098円(税込)/月
②電力量料金:夏季約2,931円(税込)/月(0.15kW×24h×30日×27.14円/kWh)、その他季節約2,762円(税込)/月(0.15kW×24h×30日×25.57円/kWh)
③再生可能エネルギー発電促進賦課金:約430円(税込)/月(0.15kW×24h×30日×3.98円/kWh)
合計(夏季):約4,459円(税込)/月
合計(その他季節):約4,290円(税込)/月
(2025年6月時点、東京電力エナジーパートナー試算)
電気料金は各電力会社の公式サイト(以下)で試算できます。
- 北海道電力:http://www.hepco.co.jp
- 東北電力:http://www.tohoku-epco.co.jp
- 北陸電力:http://www.rikuden.co.jp
- 東京電力エナジーパートナー:http://www.tepco.co.jp
- 中部電力ミライズ:https://miraiz.chuden.co.jp
- 関西電力:http://www.kepco.co.jp
- 中国電力:http://www.energia.co.jp
- 四国電力:http://www.yonden.co.jp
- 九州電力:http://www.kyuden.co.jp
- 沖縄電力:http://www.okiden.co.jp
なぜ電気防食は信頼性の高い塩害対策工法なのですか?

塩害対策としては、腐食因子である塩化物イオンの侵入を防ぐ「表面被覆工法」や、侵入済みの塩化物イオンを除去する「断面修復工法」といった対症療法的な方法があります。しかし、これらの方法では腐食反応を完全に停止させることはできず、残留した塩化物イオンにより再び塩害が発生するリスクがあります。
実際に、ある海岸地区の構造物では、表面被覆工法や断面修復工法を繰り返した結果、ランニングコストが増大し、最終的に構造物を更新せざるを得なかった事例も報告されています。
一方、電気防食は外部から直流の防食電流を流すことで、電気化学的に腐食反応を抑制する抜本的な対策方法です。この方法は腐食反応そのものを抑制するため、最も信頼性の高い塩害対策工法といえます。また、電気防食は早期に適用するほど高い効果を発揮します。
電気防食の利点は以下の通りです:
・ 腐食反応に直接働きかけ、抑制する防食工法
・多量の塩化物イオンを含む場合でも対応可能
・塩化物イオンを含むコンクリートの除去が不要
・鋼材の防錆処理が不要
・防食効果の確認が容易
電気防食は、従来の対症療法的な工法に比べ、長期的なコスト削減や信頼性の向上が期待できる工法です。
電気防食と他の塩害対策工法との違いは何ですか?

電気防食工法は、コンクリート中の鋼材に恒常的に電気を流し、腐食を停止させる点で、他の塩害対策工法と大きく異なります。
他の塩害対策工法には、断面修復工法や表面被覆工法といった対症療法的な手法があります。
断面修復工法は、多量の塩化物イオンを含むコンクリートを除去し、新たなコンクリートやモルタルで修復する方法です。腐食因子である塩化物イオンを取り除くことで防食効果を得ますが、構造物内部に塩化物イオンが多量に浸透している場合、完全に除去しきれず再劣化の可能性があります。また、プレストレストコンクリートでは応力性状が変化するという課題もあります。
表面被覆工法は、エポキシなどの樹脂をコンクリート表面に塗布し、塩化物イオンや酸素の侵入を防ぐ方法です。新設構造物に適用することで効果が期待されますが、既に内部に塩化物イオンが浸透している場合には腐食の進行を完全に防ぐことは困難です。
その他に、表面含侵材を用いた方法もあり、コンクリート表面の組織を改質し、遮塩性や撥水性を向上させる効果があります。
しかしながら、これらの手法は「臭いものに蓋」をするような対症療法に留まる場合があります。
これに対し、電気防食は腐食のメカニズムに基づき、腐食電流を解消する電気化学的手法を用いるため抜本的な対策となります。防食電流を流すことで電気化学反応を制御し、鋼材の腐食反応そのものを抑制するため、確実な効果が得られます。さらに、副次的な効果として、鋼材表面のアルカリ性の回復や塩化物イオン濃度の低減も期待できます。また、鋼材の防食状況(電位確認など)を随時モニタリングできる点も大きな利点です。
電気防食は、塩化物イオンを多量に含む場合でもこれらを除去する必要がなく、確実に防食が可能な信頼性の高い工法として広く認識されています。
電気防食をすることで他にどんなメリットがありますか?

電気防食は、コンクリート中の鋼材を陰極(-)として、コンクリート表面に設置した陽極(+)から防食電流を流すことで、鋼材の腐食反応を抑制する工法です。この防食の主目的に加え、以下のような副次的な作用も得られる点が特徴です。
1)脱塩作用:電気防食の際に流れる電流によって、コンクリート中の塩化物イオン(Cl⁻)がコンクリート表面の陽極(+)方向に移動します。この現象は「電気泳動」と呼ばれます。塩化物イオンはマイナスに荷電した陰イオンのため、防食電流によって陽極側に引き寄せられ、コンクリート中の鋼材付近から徐々に減少します。このようにして、コンクリート内部の塩化物イオン濃度を低下させることができます。
2)再アルカリ化作用:電気化学的反応により、鋼材付近(陰極(-))で水酸化物イオン(OH⁻)が生成されます。この水酸化物イオンにより、鋼材周辺のアルカリ性が回復します。アルカリ性が回復することで、鋼材近傍の腐食環境が改善され、腐食がさらに抑制される効果が期待されます。
3)長期間の腐食環境改善:電気防食で流す電流は非常に微弱ですが、適切な維持管理を行い、長期間通電を継続することで、上述の脱塩作用や再アルカリ化作用が徐々に進行します。これにより、鋼材近傍の腐食環境が大きく改善され、構造物の耐久性が向上します。
これらの副次的作用は、電気防食が単に腐食を抑制するだけでなく、コンクリート内部の腐食因子(塩化物イオン)を減少させたり、腐食環境を根本的に改善することを意味します。そのため、電気防食は長期的に信頼性の高い塩害対策工法として評価されています。
電気防食を適用できる構造物にはどのようなものがありますか?

電気防食は、桟橋や橋梁、トンネル、タンク、ビルなど、新設・既設を問わずほぼ全てのコンクリート構造物に適用可能です。構造形式(鉄筋コンクリート、プレストレストコンクリート、鉄骨コンクリートなど)による制限はありません。
ただし、コンクリート表面に電気的絶縁性の高い被覆材がコーティングされている場合や、コンクリートや断面修復材、鉄筋などの鋼材表面に電気抵抗の高い材質のものが用いられている場合は、電気防食の適用方法について検討しなければなりません。
湿潤部のコンクリート構造物は含水率が高く、塩化物イオンがコンクリートに多量に含まれていても、コンクリート中の酸素濃度が低いため、腐食が進行していない場合もあり、適用にあたっては十分に調査し検討する必要があります。
また、プレストコンクリート構造物では、以下の検討が必要となります。
ポストテンション方式は、鋼製シース管の電気防食は可能ですが、シース内のPC鋼材は防食対象とはしていません。また、シース内のグラウト不良による腐食発生までは、電気防食で抑制できなしので注意が必要です。
プレテンション方式では、PC鋼材同士の導通がない場合があります。その際は、一部PC鋼材をはつり出して機械的に導通をとる対策の検討が必要です。
電気防食は飛沫帯や海中部などでも適用できますか?

大気中、飛沫帯、干満帯、海中部のいずれの環境でも、電気防食を適用することは可能です。
ただし、ひとつの構造物がこれらの環境にまたがる場合は、環境ごとに防食回路を分離する必要があります。飛沫帯や干満帯では、コンクリートの湿潤状態(つまりコンクリート抵抗)や酸素の供給速度の変化や海中部の鋼材(鋼管杭等)に適用された電気防食の影響を受けるため、陽極システムや通電方法、維持管理方法について十分な検討が必要です。
海中部は、ほぼ電気防食の必要はありません。これは、海水中では酸素の供給がほとんどなく、腐食が進行しないためです。
入門編
電気化学的防食工法とは何ですか?

電気化学的防食工法は、コンクリート表面あるいは外部に設置した陽極と、コンクリート内部の鋼材の間に直流電流を流すことで、鋼材表面あるいはコンクリート内部に発生する電気化学的反応を鋼材の防食に利用するものです。
電気化学的防食工法には➀電気防食工法、②脱塩工法、③再アルカリ化工法、④電着工法の4種類の工法があり、それぞれの工法で防食の目的と期待される効果が異なります。
対象構造物の劣化状況や構造形式・環境条件を踏まえ、施工方法・維持管理方法・環境性・経済性を考慮して適切な工法を選定します。
下表に、それぞれの特徴のまとめを示します。

電気防食にはどのような方法がありますか?

電気防食は,防食電流の供給方式,外部電源方式と流電陽極方式に分類されます。防食に必要な電流量や対象構造物の規模,電流制御の必要性等に応じて適切な方式を選択します。
外部電源方式は,電源設備の設置が必要ですが,防食電流を調整できます。流電陽極方式は,電源設備は不要ですが,電流の調整が不可能であり,また陽極材の消耗により陽極システムの交換が必要となります。
陽極材の配置形状には面状,線状,点状の3種類があり,構造物の形状、設置環境、防食対象の広がり方などによって使い分けます。防食電流の均一性は,面状陽極が最も優れています。コンクリート表面が表面被覆処理されている場合,線状陽極は表面処理剤の除去などの前処理を行うことなく陽極設置が可能です。点状陽極は,局部的な防食に適しています。
陽極の材質にはチタン系,カーボン系,亜鉛系などがあり,構造物の種類、設置環境、必要な防食寿命などによって使い分けます。
陽極の耐用年数が最も長いものは,チタン系の陽極材です。
外部電源方式と流電陽極方式の違いは何ですか?

電気防食の方式は、その電流を流す方法により、以下の2種類に大別されます。
・外部電源方式
・流電陽極方式
外部電源方式とは、直流電源装置を設置し、その直流電源のプラス出力に陽極材を、マイナス出力に防食対象鋼材を接続し、防食電流を供給します。構造物の環境に応じて、防食電流の調整ができます。電源には一般に使用されている商用電源が使えますが、ソーラーパネルや風力発電の利用も進められています。
流電陽極方式は、亜鉛などの鉄よりイオン化しやすい金属を陽極材として、鉄とのイオン化傾向の差を利用して防食電流を供給します。この方式は、陽極材が徐々に溶け出しながら電流を流すことから、犠牲陽極方式とも呼ばれています。電源設備の設置が不要ですが、陽極材自体が消耗するため、適宜陽極システムを交換する必要があります。

電気防食システムはどのように構成されていますか?

電気防食は、コンクリート構造物中の鋼材に直流電流(防食電流)を供給することで実施されます。電気防食システムは、通電システムとモニタリングシステムから構成されます。エルガード工法のような外部電源方式においては、通電システムは、防食電流の供給・分配を担う材料・機器で、電流供給源は直流電源装置であり、電流を分配させるための材料として陽極システム(陽極材・ディストリビュータ・通電点・陽極被覆材)および排流端子・電線材が必要です。また、防食効果を確認するモニタリングシステムは、測定端子・照合電極・電線材(モニタリング用)および測定時に使用する直流電圧計によって構成されます。
なお、流電陽極方式では直流電源装置は必要ありませんが、その他はほぼ同様の構成となります。
電気防食にはどのような陽極材が用いられていますか?

陽極は、その配置形状から、面状陽極、線状陽極、点状陽極の3種類があります。面状陽極は、防食対象面に対し、面状に設置します。これにはチタンメッシュ陽極があり、電流分布の均一性に優れています。補修の場合、面状陽極を全面に施工するため、塗膜がある場合は全面除去が必要ですが、美観の向上が期待できます。
線状陽極は、防食対象面に対し、線状に所定の間隔で設置します。これにはチタンリボンメッシュ陽極、チタンリボンメッシュ陽極をV型に加工したチタンリボンメッシュRMV陽極などがあります。通常、コンクリート面に陽極設置用の溝を切削し、その溝内に陽極を設置します。既に被覆工法で補修されている構造物の場合、塗膜の除去などの下地処理を全面に施す必要がありません。新設の構造物に適用する場合は、鉄筋組み立て時のコンクリート打設前に簡単に取り付けられます。鋼材の配筋状況などに応じて陽極間隔を変えることで、電流分布を適性に変えることができます。
点状陽極は、防食対象コンクリート面にドリルで削孔し、そこに挿入します。このため、表面からは点状に設置しているように見えます。この陽極には、チタンリボンメッシュ陽極を点状配置用に加工したものがあります。部分的な陽極の設置ができるため、局部的な防食に効果的です。
電気防食はどのようなところに適用しますか?

電気防食は、様々な環境にあるコンクリート構造物に適用できます。
電気防食は、主に塩害によるコンクリート中の鋼材の腐食対策として用います。既設の塩害コンクリート構造物や、これからの供用期間中において問題塩害となる可能性のあるコンクリート構造物です。もちろん、新設構造物やプレストレストコンクリート(PC)にも適用できます。
これらのうち、環境に関する適用対象で、干満帯部への適用に際しては検討が必要です。これは、これらの環境が大気中部とは異なるため、必要となる防食電流密度の均一性を考慮し、防食回路を分離させるなどの対策が必要なためです。もし、均一性が損なわれ、部分的に過剰な通電量となった場合、陽極材の周囲で塩素や酸素ガス、酸が発生し被覆モルタルの劣化に繋がる可能性があるため、注意が必要です。
劣化程度においては、加速期や劣化期の場合、防食対象とするコンクリート構造物には劣化が顕在化しており、このような場合には、他の補修工法や補強工法を併用して、電気防食工法を適用します。
PC鋼材を含む部材に、電気防食を適用し、過剰な通電量になった場合にはPC鋼材が水素脆化する可能性があるので、水素が発生しないような鋼材電位を維持するための、設計ならびに維持管理が必要です。また、PC鋼材に限らず過剰な通電量になった場合には、陽極被覆モルタルが劣化したり、鋼材周囲のコンクリートが軟化し、鋼材の付着力が低下する可能性があるので、PC鋼材でない場合でも、同様に適切な設計ならびに維持管理が必要です。
ポストテンション方式のPC部材では、シース内部のPC鋼材は一般に防食対象にはなりません。これはシース内部のPC鋼材の表面に防食電流が到達しないためです。ただし、シースが金属製で、かつ、腐食によってシース内部のPC鋼材が露出しているような部位では、適切な措置を行えばPC鋼材の表面に防食電流が到達します。そのような部位では、PC鋼材を防食対象として取り扱うことができます。
プレテンション方式のPC部材では、PC鋼線同士や帯筋が電気的に導通していない場合も多く、防食対象となる最外層のPC鋼線同士や帯筋同士の導通工をとる必要があります。
アルカリシリカ反応(ASR)が懸念される構造物への適用にあたっては、電気防食を適用することによって反応が助長される可能性があるので、その適用については十分な検討が必要となります。
外部電源方式の電気防食を適用できない施設や立地条件はありますか?

基本的にはありません。
外部電源方式の電気防食は、防食電流を供給するための電源設備が必要です。通常は、商用電源(100Vまたは200Vなど)を用い、交流を直流に変換して使用していますが、山間部や離島などでは商用電源が確保できない場合があります。このような場合には、ソーラー発電や風力発電などを利用して電源を確保し、電気防食を行うことが可能です。ただし、このような再生可能エネルギーを使用する場合は、得られる電力量で十分な防食を達成できるか、再生可能エネルギーシステム自体のメンテナンスが安定的に行えるかなど、入念な検討が必要です。
また、揚油桟橋や石油・ガス製造工場敷地内などの火気厳禁区域で電気防食工法を適用する場合は、対象物が防爆区域内にあることが多いため、電気設備に防爆対策を講じなければなりません。外部電源方式の電気防食における対策としては、防爆地域内に設置する直流電源装置や中継用接続箱などを防爆対応型の電気設備とすることや、防爆対策が必要とならない防爆地域外に電源装置を設置することなどがあります。
電気防食はどの程度劣化したものに適用できますか?

電気防食は、適用する構造物の劣化程度に関係なく、適用することが可能です。
すなわち、予防維持管理を目的とした新設構造物への適用から、劣化損傷が非常に激しく大規模補修・補強工事を必要とするような既設構造物への適用まで、あらゆるだいたいの構造物に適用できます。なお、構造物の劣化損傷が非常に激しい場合には、各種の補修・補強工法と併用して電気防食工法を適用します。
電気防食工法を適用する場合は、コンクリート中の含有塩化物イオン量(塩化物イオン濃度)に関係なく防食できるため、はつり量や断面修復の範囲を小さくすることができます。
ただし、電気防食では、コンクリートを介して防食電流が供給されるため、断面欠損箇所は、モルタルまたはコンクリートで修復しなければなりません。また、浮き・剥離部は、電気を通さない空気層がコンクリート中に存在することになり、防食効果が得られなくなるため、これらをはつり取って、断面修復を行わなければなりません。
断面修復に際しては、既設鋼材の除錆や付着力を考慮することも重要です。除錆が十分にできない場合は防錆剤の使用、水打ち養生や電気防食用モルタルだけで長期付着力が不安な場合はプライマーや樹脂モルタル等の使用も考慮します。
ひび割れに対する補修は、ひび割れ幅が軽微で活荷重による動きがない場合には、対策を行う必要がありません。軽微なひび割れの場合、防食電流の流れを大きく阻害することなく、十分に防食効果を得ることができるためです。これら以外のひび割れは、セメント系のひび割れ注入材で補修し、電気防食の効果によって、コンクリート中の鋼材を腐食から保護します。
なお、補強工事と併用する場合には、設計および施工において、補強に用いる鋼材が陽極と接触しないような配慮が必要となります。
電気防食の効果はどの程度の範囲まで及びますか?

下図は、チタンメッシュ陽極による電気防食時の陽極端部での復極量の変化を実験的に求めた結果です※。復極量は、電気防食の効果を把握する指標の一つです。
この図に基づきますと、復極量は、陽極端部からの距離が離れるに従い、小さくなっています。すなわち、これは、陽極からの距離が離れるに従い、防食効果が徐々に小さくなっていることを示しており、陽極からの距離がある程度離れたところでは、電気防食による防食効果がほとんど得られなくなります。
なお、電気防食の効果が得られる範囲は、陽極材の種類や配置、通電電圧や電流の大きさ、コンクリートの含水率、鋼材の腐食状態、配筋量、かぶり、および電気防食期間などの要因によって変化します。

※武若耕司:コンクリート構造物における電気防食法の現状、コンクリート工学 Vol.30、No.8、1992.8
電気防食はコンクリート表面にある金属(附帯物等)に悪影響を及ぼしませんか?

設計・施工の各段階で適切な処理を行うことで、電気防食がコンクリート表面にある金属に悪影響を及ぼすことはありません。
コンクリート構造物の表面には、鋼製排水桝や鋼製点検路などの金属(附帯物等)が取り付けられている場合があります。防食設計ではこれらの金属を電気防食の防食対象外と設定しますが、これらの金属が陽極と接触、または近接した場合には、陽極から金属に電流が流れ込み、その金属から防食対象鋼材に電流が流出して想定外の腐食をおこす(アノード電解)場合があります。
電気防食の設計や施工においては、コンクリート表面に電気防食対象外の金属がある場合、陽極と当該金属の離隔距離を15cm程度確保します。この離隔距離を確保できない場合、当該金属を電気防食対象と設定し、コンクリート中の防食対象鋼材と電気的な導通(ボンド処理)を施します。
また、桟橋などにおいては、鋼管杭に電気防食が施工されている場合がありますが、このような場合には、鋼管杭の防食とコンクリートの防食が個々の防食として機能するように、コンクリート構造物の電気防食範囲を決めるほうが効率的です。
なお既設のコンクリート構造物には、新設時の施工に用いられたセパレーターなどがコンクリートの表面に存在する場合がありますが、これらのうち、電気防食対象部に存在し、陽極と接触する可能性がある場合には、除去しなければなりません。

電流を流すことで人体やコンクリートへの影響はありませんか?

電気防食で防食回路にかかる電圧は、通常2~5V程度です。電流は、防食回路を300㎡として、3~6A程度です。10cm四方では0.1~0.2mAしか流れていません。このように極めて微小な通電量ですから、適切に管理すれば人体やコンクリートへの影響はありません。
電気防食施設は電気設備技術基準により、直流電源装置の出力電圧を60V以下とすることや、アース(接地)をとらなければならないことが定められています。
これらは、電気防食による通電が、人体や周辺金属に影響しないよう安全に運転するための基準です。
コンクリート構造物の電気防食の施工実例では、直流電源装置の出力電圧はさらに低く30V以下です。
なお、まれに出力電圧が10Vを超えて高い場合があります。かつ桟橋などで足元が海水で濡れていると人体が低接地となり、陽極を直接素手で触ると、電流が集中して流れ、ピリッと感電する場合があります。出力電圧が高い場合や体が濡れている場合は、陽極や陽極に通じる電線を直接手で触れないように念のため注意しましょう。
既に補修してある構造物に適用する場合の注意点は何ですか?

電気防食では、コンクリート構造物の表面に設置した陽極システムから、コンクリートを介して防食対象とする鋼材に防食電流を流すことで防食効果が得られます。したがって、すでに補修してある構造物に適用する場合は、電流分布が均一となるように設計・施工する必要があります。
コンクリート構造物に対する補修としては、表面処理、断面修復、ひびわれ補修などがあります。これらの補修に用いた材料(表面被覆材、表面含浸材、防錆剤、断面修復材、ひび割れ注入材)の電気抵抗率がコンクリートと大きく異なる場合は、防食電流の分布が不均一となるおそれがあります。このような材料が使われていないか、その構造物の補修履歴をよく調査することが肝心です。
例えば、エポキシ樹脂などでコンクリート表面が被覆されていた場合は、これが電気的絶縁層となるため、陽極システムの設置部位では必要に応じてこれらを除去する必要があります。有機系のひび割れ注入材が使用されていた場合は、線状陽極方式や点状陽極方式を適用する際には特に注意してください。ポリマーセメントモルタルなど、コンクリートに比べ電気抵抗率が高い断面修復材が使用されていた場合は、これが電流分布に与える影響や除去の必要性を設計段階で検討しなければなりません。また、断面修復材と既存コンクリートの接着強度を確保するための下地処理材(プライマー等)においても材料が過度に防食電流を妨げないことを確認する必要があります。

電気防食は他の補修工法や補強工法と併用できますか?

電気防食工法と他の補修・補強工法との併用は可能です。
しかし、電気防食を補修や補強と併用する場合、その構造物にとって、どの対策に緊急性があるのかを判断しなければなりません。残存予定供用期間や第三者影響度を考慮し、延命させた方がよいのか、更新するのがよいのかによっても適否が変わります。電気防食はあくまでも鋼材の腐食を抑制する補修工法です。補強が必要な場合には、当該構造物に必要な補強工法を併用できるかを検討しなければなりません。
一方、電気防食の施工時に実施する補修や補強の場合は、ひび割れ注入や断面修復に用いる材料の選定に注意する必要があります。
また、電気防食を行ったコンクリート表面には表面被覆を行う必要がありません。これは、電気防食により防食効果は十分確保されるので、表面被覆により、塩化物の浸入を防ぐ必要がないからです。連続繊維接着工法などを行う場合には、電気防食の通電時には電気化学的反応による酸素や塩素ガスの発生により、シート材の膨れが生じる場合もあり、これらのガスがコンクリート表面から抜けるよう格子状に貼るなどの設計・施工上の配慮も必要です。
さらに、外ケーブルなどの補強を行う場合には、補強に用いる金属が陽極システムと接触しないように設計・施工することが重要です。

防食管理指標とは何ですか?

防食管理指標(旧用語:防食基準)とは、電気防食による防食効果を判定する指標です。
海水中や土壌中の鋼構造物の防食効果の判定は、鋼材電位が腐食を停止させる電位よりもマイナス(卑)側であることを確認することで実施されてきました。すなわち、海水中や土壌中にある鋼構造物の防食管理指標は、鋼材の防食電位を基準値(飽和硫酸銅基準でマイナス850mV 以下)として定められてきました。
土木学会コンクリートライブラリー157「電気化学的防食工法指針」では、コンクリート構造物に対する電気防食に対して以下の(1)~(3)が防食管理指標とされています。
(1)設計防食期間にわたって防食効果が発揮されるように防食管理指標を設定する。防食管理指標は、その項目を鋼材の分極量あるいは復極量とすること。およびその水準を100mV以上とすることを標準とする。
(2)分極量または復極量で適正に防食効果を判定できないことが想定される場合は、鋼材の分極量あるいは復極量とは異なる防食管理指標を設定してもよい。
(3)PC鋼材ではインスタントオフ電位も防食管理指標の項目とし、その水準は飽和硫酸銅電極(CSE)基準でマイナス1000mV(マイナス1000mV vs.CSE と書きます)よりもプラス方向(貴)側の電位を保つこととする。
一般的に、コンクリート構造物の防食管理指標は、これまでの実績や安全性を考慮し、防食管理指標(1)が用いられます。なお、特定の環境(下記、a)、b)、c))では、防食管理指標(1)を用いても適正に防食効果を評価できない場合もあり、防食管理指標(2)を十分に検討し、設定してもよいとされています。防食管理指標(1)を遵守しようとすると、防食電流を過剰に供給してしまう事態が発生するときがあります。これを回避するために、防食管理指標(2)を検討します。過剰に防食電流が供給されると、陽極電位が塩素発生電位よりもプラス(貴)側に変化することで塩素ガスが発生し、生成される次亜塩素酸が被覆モルタルに悪影響を及ぼす可能性があります。
a)鋼材の電位の復極速度が緩やかな場合
コンクリートの含水率が高い場合に、酸素の供給量が少なく所定の時間(一般的に4~24時間)で復極量100mVに到達しない場合があります。このような環境では、防食管理電位を飽和硫酸銅基準でマイナス790mVよりマイナス(卑)側で設定できます。
b)鋼材オフ電位が経時的にプラス方向(貴側)に変化している場合
電気防食を長期間適用したときに鋼材周囲の環境改善により、復極量100mV未満でも防食効果を有していることがあります。この場合は、防食対象の鋼材のオフ電位が飽和硫酸銅基準でマイナス200mVよりもプラス(貴)側 であれば、鋼材の不動態皮膜は再生しており防食効果が得られていると判断できます。
c)港湾構造物の下部工に流電陽極方式の電気防食が適用されている場合港湾構造物の下部工(鋼部材)には、流電陽極方式の電気防食が適用されていることが多く、上部工のコンクリート部に電気防食工法を適用すると、海中部の流電陽極材から供給される防食電流がコンクリート内部の鋼材にも供給されることがあります。このような場合は、防食効果を確認するための試験時期やH.W.L.(朔望平均満潮面)を基準位置として防食電流量を変化するなどの検討を行うことで適切に管理できます。
防食管理指標(3)は、PC鋼材では、鋼材の電位がマイナス側に変化しすぎると、鋼材表面で水素が発生し、これが原因でPC鋼材が脆くなり破断にいたる場合があります(水素脆化)。そのため、コンクリート中のPC鋼材表面におけるカソード反応により水素が発生しないように鋼材電位を管理する防食管理指標(3)が設けられています。具体的には、鋼材のインスタントオフ電位を飽和硫酸銅基準でマイナス1000mVよりプラス方向に保つことで水素発生を抑制し、過防食からPC 鋼材を保護しています。
インスタントオフ電位とは何ですか?

コンクリート構造物の電気防食において、コンクリートに埋設された照合電極を基準として、通電中に測定された鋼材電位をオン電位と言います。
このオン電位はみかけの鋼材電位です。なぜなら、オン電位には、真の鋼材電位の他に、通電により生じる電圧降下の影響が含まれているからです。この電圧降下は、照合電極から鋼材間のコンクリート抵抗分です。したがって、通電時の真の鋼材電位を知るには、この電圧降下の影響を除去する必要があります。この電圧降下の影響を除いた真の鋼材電位をインスタントオフ電位と言います。このインスタントオフ電位は、鋼材の分極量や復極量を測定するときに使用される電位です。
では、インスタントオフ電位はどのように測定されるのでしょうか?防食電流供給中に測定される鋼材のオン電位とインスタントオフ電位、電圧降下分の関係は次のようになっています。
Eon=Eio+ΔE
ここで、Eon:鋼材のオン電位、Eio:インスタントオフ電位(真の鋼材電位)、
ΔE:電圧降下分の電位(IR ドロップと呼びます)
さらに、電圧降下分とは次式です。
Δ E=-I×R
ここで、I:コンクリート構造物に供給される防食電流、R:照合電極から鋼材までのコンクリート抵抗。
これらの式から、電圧降下分の電位を測定電位から除去するには、I=O、すなわち防食電流の供給を停止すればよいことが分かります。したがって、防食電流の供給を停止した直後に測定した電位がインスタントオフ電位になることが分かります。
これにより、インスタントオフ電位とは、通電中の真の鋼材電位であり、下図のように、通電を停止した直後において測定される電位を指すことが分かります。
ところで、コンクリートライブラリ157「電気化学的防食工法指針」では、陽極電位の測定も追記されました。陽極のオン電位Ea、on、陽極インスタントオフ電位(真の陽極電位)Ea、io、照合電極から陽極間のコンクリート抵抗に伴う電圧降下IR' の関係は以下になります。
Ea、on=Ea、io+IR'
ここで、Ea、on:陽極のオン電位、Ea、io:陽極インスタントオフ電位(真の陽極電位)IRの符号に注意してください。鋼材電気防食時には、鋼材は-IR、陽極は+IR'です。


分極とは何ですか?

分極とは、電流を流すことによって鋼材の電位が変化する現象です。コンクリート構造物の電気防食では、鋼材を陰極(カソード)としています。したがって、マイナスの防食電流をコンクリート構造物中の鋼材に供給すると、真の鋼材電位(インスタントオフ電位)はマイナス(卑)側 へ変化します。この電位が変化する現象を分極(カソード分極)と言います。また、このときの変化量を分極量と言います。
一般に、防食対象に供給する電流量を大きくすると、鋼材の分極量も大きくなります。次頁の図は、防食電流密度を徐々に大きくしたときの、鋼材の電位を示した概念図です。電流密度を大きくすると、鋼材の電位はマイナス(卑)側へ変化する、つまり分極することが分かります。


復極とは何ですか?

防食電流をコンクリート構造物に供給すると、鋼材の電位がマイナス方向へ変化(分極)します(→入門Q.04・18)
このとき、防食電流の供給を停止させると、マイナス方向に変化(分極)した鋼材の電位は、もとの電位に戻ろうとします。この現象を「復極」と言います。
また、復極時の鋼材電位とインスタントオフ電位の差を「復極量」と言います。復極の速度は、コンクリート内部の鋼材への酸素の供給速度に影響を受けます。この酸素の拡散速度は以下の項目に影響を受けます。
・酸素の少ない環境(水中部だと酸素が少なく復極速度減少)
・水セメント比(水セメント比が低いと復極速度減少)
・ コンクリートの水分量(高湿度の条件では空隙が液状水でふさがれるので復極速度減少)
・かぶり厚(かぶりが増大すると復極速度減少)
・コンクリートの緻密性(コンクリートが緻密になるほど復極速度減少)
一般に、防食対象に供給していた電流量が大きいと、鋼材の復極量も大きくなります。また、コンクリート構造物の電気防食において、復極は瞬時に達成されません。したがって、復極量を測定するときには、防食電流供給停止から測定までの時間を十分に確保することが重要です。

電気防食の効果はどのような方法で確認するのですか?

電気防食の効果は、防食管理指標(旧用語:防食基準)が達成されているか否かを測定することで、確認します。(→入門Q.14)
この防食管理指標は、土木学会 コンクリートライブラリー157「電気化学的防食工法指針」に記載されています。また、欧州のISO 12696:2016(E)“Cathodic protection of steel in concrete”、米国のNACE:National Associations of Corrosion Engineers、SP0290-2019などの基準に基づくものです。
電気防食における防食効果は、施工時に設置した埋込み型の照合電極を用いて確認します。
その確認は、通常、通電により鋼材の電位がマイナス方向(卑)に100mV以上変化していることを復極量試験によって確認します。この試験は、(→入門Q.17)に示すように、通電を一時的に停止し、停止直後の鋼材のインスタントオフ電位(Eio)と一定の時間が経過した後(一般的に4~24時間以上経過後)の電位(Eoff)の差を測定して、防食基準である100mVシフトが得られるかを確認する試験です。
分極量は、通常、通電前の鋼材電位(自然電位)より、通電後の真の鋼材電位(インスタントオフ電位)がマイナス方向(卑側)に100mV以上変化していることで確認します。(→入門Q.14)
なお、この分極量や復極量試験、過防食の管理には、照合電極を用いて鋼材の電位を測定します。この時に用いる直流電圧計は、高入力抵抗(100MΩ以上)のものを使用しなければなりません。
電気防食の効果はどのくらいの期間有効ですか?

電気防食の効果は、適切な維持管理により電気防食システムが適正に作動していれば、半永久的に有効です。すなわち、システムが作動し、防食電流が供給され、防食管理指標が達成されていれば、その効果は持続しています。防食効果が得られなくなる現象としては、防食電流が供給されないことであり、停電などがあります。なお、通電が停止しても直ちに腐食が進行するわけではありません。通電期間や構造物の環境にもよりますが、しばらく防食効果は維持されます。これは電気防食効果により鋼材の再不動態化などが起きているからです。
陽極材は通電によって消耗していきます。しかし、エルガードシステムに用いられる陽極材は高耐久性であり、通電によって消耗することはほとんどありません。陽極材自体の消耗は定められている陽極電流密度で、40年~100年の耐久性が保証されています。ただし、陽極材を被覆するモルタルは通電により劣化しますので適宜更新が必要です。(→入門Q.20)
また、配線・配管材や電源装置などの劣化は通電の停止につながりますが、これらは交換可能です。維持管理において、その不備が発見された時点で、交換することによって、対処することができます。
なお、これらの機器の選定にあたっては、通常、対象構造物の残存の供用年数と使用する機器の耐用年数を考慮して決定されますが、これまでの実績では10~20年程度が多いようです。(→入門Q.21)
陽極材の耐久性はどの程度ありますか?

陽極材の耐久性は、陽極材を構成する材料により異なります。
チタンメッシュ陽極やチタンリボンメッシュ陽極などは、高純度チタンを基材として表面に貴金属酸化物の触媒が焼き付けてあります。これにより、基材のチタン自身は消耗しません。また、触媒も元々酸化物のため、それ以上酸化されて消耗することはほとんどなく、40年~100年の耐用年数があります。
ただし、陽極を被覆するモルタルは徐々に劣化していきますので、適宜更新が必要です。
カーボン系の陽極材を用いたものは、通電に伴いカーボンが消耗します。耐用年数は、カーボン量と通電電流量に依存する消耗速度とによって決まります。
流電陽極方式で用いられる陽極材としては、亜鉛系陽極材が一般的です。流電陽極方式では、亜鉛が消耗することで防食電流が供給されるため、20年程度で陽極材を交換する必要があります。
電気防食システム全体の耐用年数はどの程度ですか?

外部電源方式の電気防食システムでは、陽極システム(陽極材、ディストリビュータ、通電点、陽極被覆材)、排流端子、配線・配管、直流電源装置およびモニタリングシステム(照合電極ほか)が必要です。(→入門Q.2)
陽極システムは、その材質により耐用年数が異なります。貴金属酸化物触媒を焼き付けしたチタン系陽極材は40年~100年の耐用年数を有しますが、陽極被覆モルタルは適宜更新する必要があります。チタン系貴金属酸化物以外の材質では供用期間中に陽極材自体の交換が必要となる場合もあります。(→入門Q.20)
配線・配管材は、通電により消耗しません。ただし、配線の被覆材や配管材は樹脂製のものが多く、樹脂材は紫外線に弱いものが多いので、定期的な更新が必要です。配線・配管材の固定材は厳しい塩害環境ではステンレス製等の耐食性金属を用いる場合もありますが、それでも腐食が進行する事もあります。
例えば、紫外線の影響を受けない桟橋下面では、配線・配管材は耐用年数30年以上の実績がありますが、一方で台風等の荒天時の波浪により桟橋下面の固定材が損傷を受け、配線・配管材が施工後まもなく脱落した事例もあります。
直流電源装置は、電気部品の集まりです。直流電源装置は、ほこりなどによる故障が生じやすいため、定期的なメンテナンスが重要です。また、電気部品のうち、コンデンサーや冷却ファンモーターなどは10年程度で寿命となる場合が多いため、これら消耗品の交換が必要です。
このように構造物の立地環境や供用年数に応じた材質や設置位置の選定が重要です。


詳しくは、冊子版「改訂版:コンクリート構造物の電気防食Q&A~建通新聞社監修」をご購入ください。

